梗 そう云ううちに、色もかくれて、薄《すすき》ばかりが真白《まっしろ》に、水のように流れて来ました。
葛 空は黒雲《くろくも》が走りますよ。
薄 先刻《さっき》から、野も山も、不思議に暗いと思っていた、これは酷《ひど》い降りになりますね。
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舞台暗くなる、電光|閃《ひらめ》く。
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撫子 夫人《おくさま》は、どこへおいで遊ばしたのでございますえ。早くお帰り遊ばせば可《よ》うございますね。
薄 平時《いつも》のように、どこへとも何ともおっしゃらないで、ふいとお出ましになったもの。
萩 お迎いにも参られませんねえ。
薄 お客様、亀姫様のおいでの時刻を、それでも御含みでいらっしゃるから、ほどなくお帰りでござんしょう。――皆さんが、御心入れの御馳走《ごちそう》、何、秋草を、早くお供えなさるが可《よ》いね。
女郎花 それこそ露の散らぬ間《ま》に。――
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正面奥の中央、丸柱の傍《かたわら》に鎧櫃《よろいびつ》を据えて、上に、金色《こんじき》の眼《まなこ》、白銀《しろがね》の牙《きば》、色
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