れないものじゃないかね。
女郎花 いいえ、お魚とは違いますから、声を出しても、唄いましても構いません。――ただ、風が騒ぐと下可《いけ》ませんわ。……餌の露が、ぱらぱらこぼれてしまいますから。ああ、釣れました。
薄 お見事。
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と云う時、女郎花、棹《さお》ながらくるくると枠を巻戻す、糸につれて秋草、欄干に上り来《きた》る。さきに傍《かたわら》に置きたる花とともに、女童の手に渡す。
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桔梗 釣れました。(おなじく糸を巻戻す。)
萩 あれ、私も……
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花につれて、黄と、白、紫の胡蝶《こちょう》の群《むれ》、ひらひらと舞上る。
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葛 それそれ私も――まあ、しおらしい。
薄 桔梗さん、棹をお貸しな、私も釣ろう、まことに感心、おつだことねえ。
女郎花 お待ち遊ばせ、大層風が出て参りました、餌が糸にとまりますまい。
薄 意地の悪い、急に激しい風になったよ。
萩 ああ、内廓《うちぐるわ》の秋草が、美しい波を打ちます。
桔
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