な》で取って差上げようと存じまして、花を……あの、秋草を釣りますのでございますよ。
薄 花を、秋草をえ。はて、これは珍しいことを承ります。そして何かい、釣れますかえ。
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女童《めのわらわ》の一人の肩に、袖でつかまって差覗《さしのぞ》く。
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桔梗 ええ、釣れますとも、もっとも、新発明でございます。
薄 高慢なことをお言いでない。――が、つきましては、念のために伺いますが、お用いになります。……餌《えさ》の儀でござんすがね。
撫子 はい、それは白露でございますわ。
葛 千草八千草秋草が、それはそれは、今頃は、露を沢山《たんと》欲しがるのでございますよ。刻限も七つ時、まだ夕露も夜露もないのでございますもの。(隣を視《み》る)御覧なさいまし、女郎花さんは、もう、あんなにお釣りなさいました。
薄 ああ、ほんにねえ。まったく草花が釣れるとなれば、さて、これは静《しずか》にして拝見をいたしましょう。釣をするのに饒舌《しゃべ》っては悪いと云うから。……一番《いっち》だまっておとなしい女郎花さんがよく釣った、争わ
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