下げ]
桃六 美しい人たち泣くな。(つかつかと寄って獅子の頭《かしら》を撫《な》で)まず、目をあけて進ぜよう。
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火打袋より一挺《ちょう》の鑿《のみ》を抜き、双の獅子の眼《まなこ》に当《あ》つ。
――夫人、図書とともに、あっと云う――
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桃六 どうだ、の、それ、見えよう。はははは、ちゃんと開《あ》いた。嬉しそうに開いた。おお、もう笑うか。誰《た》がよ誰がよ、あっはっはっ。
夫人 お爺様《じいさん》。
図書 御老人、あなたは。
桃六 されば、誰かの櫛《くし》に牡丹《ぼたん》も刻めば、この獅子頭も彫った、近江之丞桃六と云う、丹波《たんば》の国の楊枝削《ようじけずり》よ。
夫人 まあ、(図書と身を寄せたる姿を心づぐ)こんな姿を、恥かしい。
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図書も、ともに母衣《ほろ》を被《かつ》ぎて姿を蔽《おお》う。
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桃六 むむ、見える、恥しそうに見える、極《きま》りの悪そうに見える、がやっぱり嬉しそうに見える、はっはっはっ
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