はっ。睦《むつま》じいな、若いもの。(石を切って、ほくちをのぞませ、煙管《きせる》を横銜《よこぐわ》えに煙草《たばこ》を、すぱすぱ)気苦労の挙句は休め、安らかに一|寝入《ねいり》さっせえ。そのうちに、もそっと、その上にも清《すずし》い目にして進ぜよう。
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鑿《のみ》を試む。月影さす。
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そりゃ光がさす、月の光あれ、眼玉。(鑿を試み、小耳を傾け、鬨《とき》のごとく叫ぶ天守下の声を聞く)
世は戦《いくさ》でも、胡蝶《ちょう》が舞う、撫子《なでしこ》も桔梗《ききょう》も咲くぞ。――馬鹿めが。(呵々《からから》と笑う)ここに獅子がいる。お祭礼《まつり》だと思って騒げ。(鑿を当てつつ)槍、刀、弓矢、鉄砲、城の奴等《やつら》。
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[#地から2字上げ]――幕――
[#地から1字上げ]大正六(一九一七)年九月
底本:「泉鏡花集成7」ちくま文庫、筑摩書房
1995(平成7)年12月4日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第二十六卷」岩波書店
1942(昭和17)年10月15日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用い
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