馬上の殿様は、澄《すま》して袂《たもと》へお入れなさった。祟《たたり》を恐れぬ荒気の大名。おもしろい、水を出さば、天守の五重を浸《ひた》して見よ、とそれ、生捉《いけど》って来てな、ここへ打上げたその獅子頭だ。以来、奇異|妖変《ようへん》さながら魔所のように沙汰する天守、まさかとは思うたが、目《ま》のあたり不思議を見るわ。――心してかかれ。
九平 心得た、槍をつけろ。
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討手、槍にて立ちかかる。獅子狂う。討手|辟易《へきえき》す。修理、九平等、抜連れ抜連れ一同|立掛《たちかか》る。獅子狂う。また辟易す。
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修理 木彫にも精がある。活《い》きた獣も同じ事だ。目を狙《ねら》え、目を狙え。
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九平、修理、力を合せて、一刀《ひとたち》ずつ目を傷《きずつ》く、獅子伏す。討手その頭《かしら》をおさう。
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図書 (母衣《ほろ》を撥退《はねの》け刀を揮《ふる》って出づ。口々に罵《ののし》る討手と、一刀合すと斉《ひと》しく)
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