狩、もみじ山だが、いずれ戦《いくさ》に負けた国の、上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《じょうろう》、貴女、貴夫人たちの落人《おちうど》だろう。絶世の美女だ。しゃつ掴出《つかみいだ》いて奉れ、とある。御近習、宮の中へ闖入《ちんにゅう》し、人妻なればと、いなむを捕えて、手取足取しようとしたれば、舌を噛《か》んで真俯向《まうつむ》けに倒れて死んだ。その時にな、この獅子頭を熟《じっ》と視《み》て、あわれ獅子や、名誉の作かな。わらわにかばかりの力あらば、虎狼《とらおおかみ》の手にかかりはせじ、と吐《ほざ》いた、とな。続いて三年、毎年、秋の大洪水よ。何が、死骸《しがい》取片づけの山神主が見た、と申すには、獅子が頭《かしら》を逆《さかしま》にして、その婦《おんな》の血を舐《な》め舐め、目から涙を流いたというが触出《ふれだ》しでな。打続く洪水は、その婦《おんな》の怨《うらみ》だと、国中の是沙汰《これざた》だ。婦《おんな》が前髪にさしたのが、死ぬ時、髪をこぼれ落ちたというを拾って来て、近習が復命をした、白木に刻んだ三輪|牡丹高彫《ぼたんたかぼり》のさし櫛《ぐし》をな、その時の
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