平 (雪洞《ぼんぼり》を寄す)やあ、怪《あや》しく、凄《すご》く、美しい、婦《おんな》の立姿と見えたはこれだ。
修理 化《ばけ》るわ化るわ。御城の瑞兆《ずいちょう》、天人のごとき鶴を御覧あって、殿様、鷹を合せたまえば、鷹はそれて破蓑《やれみの》を投落す、……言語道断。
九平 他《ほか》にない、姫川図書め、死《しに》ものぐるいに、確にそれなる獅子母衣に潜ったに相違なし。やあ、上意だ、逆賊|出合《いであ》え。山隅九平向うたり。
修理 待て、山隅、先方で潜った奴《やつ》だ。呼んだって出やしない。取って押え、引摺出《ひきずりだ》せ。
九平 それ、面々。
修理 気を着けい、うかつにかかると怪我をいたす。元来この青獅子《あおじし》が、並大抵のものではないのだ。伝え聞く。な、以前これは御城下はずれ、群鷺山《むらさぎやま》の地主神《じしゅじん》の宮に飾ってあった。二代以前の当城殿様、お鷹狩の馬上から――一人|町里《まちさと》には思いも寄らぬ、都方《みやこがた》と見えて、世にも艶麗《あでやか》な女の、一行を颯《さっ》と避けて、その宮へかくれたのを――とろんこの目で御覧《ごろう》じたわ。此方《こなた》は鷹
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