恐しと存じておるゆえ、いささか躊躇《ちゅうちょ》はいたしますが、既に、私《わたくし》の、かく参ったを、認めております。こう云う中にも、たった今。
夫人 ああ、それもそう、何より前《さき》に、貴方をおかくまい申しておこう。(獅子頭を取る、母衣《ほろ》を開いて、図書の上に蔽《おお》いながら)この中へ……この中へ――
図書 や、金城鉄壁。
夫人 いいえ、柔い。
図書 仰《おおせ》の通り、真綿よりも。
夫人 そして、確《しっ》かり、私におつかまりなさいまし。
図書 失礼御免。
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夫人の背《せな》よりその袖に縋《すが》る。縋る、と見えて、身体《からだ》その母衣の裾《すそ》なる方《かた》にかくる。獅子頭を捧げつつ、夫人の面《おもて》、なお母衣の外に見ゆ。
討手どやどやと入込《いりこ》み、と見てわっと一度退く時、夫人も母衣に隠る。ただ一頭青面の獅子猛然として舞台にあり。
討手。小田原|修理《しゅり》、山隅|九平《くへい》、その他。抜身《ぬきみ》の槍《やり》、刀。中には仰山に小具足をつけたるもあり。大勢。
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