に一人、あら切抜けた、図書様がお天守に遁込《にげこ》みました。追掛けますよ。槍《やり》まで持出した。(欄干をするすると)図書様が、二重へ駈上《かけあが》っておいでなさいます。大勢が追詰めて。
夫人 (片膝立つ)可《よ》し、お手伝い申せ。
薄 お腰元衆、お腰元衆。――(呼びつつ忙《せわ》しく階子《はしご》を下り行く。)
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夫人、片手を掛けつつ几帳越に階子の方を瞰下《みおろ》す。
――や、や、や、――激しき人声、もの音、足蹈《あしぶみ》。――
図書、もとどりを放ち、衣服に血を浴ぶ。刀を振《ふる》って階子の口に、一度|屹《きつ》と下を見込む。肩に波打ち、はっと息して※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》となる。
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夫人 図書様。
図書 (心づき、蹌踉《よろよろ》と、且つ呼吸《いき》せいて急いで寄る)姫君、お言葉をも顧みず、三度の推参をお許し下さい。私《わたくし》を賊……賊……謀逆人《むほんにん》、逆賊と申して。
夫人 よく存じておりますよ。昨日今日、今までも、お互に友と呼んだ人たちが、
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