と申すよ。――縁だねえ。
薄 きっと御縁がござりますよ。
夫人 私もどうやら、そう思うよ。
薄 奥様、いくら貴女のお言葉でも、これはちと痛入《いたみい》りました。
夫人 私も痛入りました。
薄 これはまた御挨拶でござります――あれ、何やら、御天守下が騒がしい。(立って欄干に出づ、遥《はるか》に下を覗込《のぞきこ》む)……まあ、御覧なさいまし。
夫人 (座のまま)何だえ。
薄 武士が大勢で、篝《かがり》を焚《た》いております。ああ、武田播磨守殿、御出張、床几《しょうぎ》に掛《かか》ってお控えだ。おぬるくて、のろい癖に、もの見高な、せっかちで、お天守見届けのお使いの帰るのを待兼ねて、推出《おしだ》したのでござります。もしえもしえ、図書様のお姿が小さく見えます。奥様、おたまじゃくしの真中《まんなか》で、御紋着《ごもんつき》の御紋も河骨《こうぼね》、すっきり花が咲いたような、水際立ってお美しい。……奥様。
夫人 知らないよ。
薄 おお、兜あらためがはじまりました。おや、吃驚《びっくり》した。あの、殿様の漆みたいな太い眉毛が、びくびくと動きますこと。先刻《さっき》の亀姫様のお土産の、兄弟の、あの
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