。
図書 はっ。(兜を捧げ、やや急いで階子《はしご》に隠る。)
夫人 (ひとりもの思い、机に頬杖《ほおづえ》つき、獅子にもの言う)貴方、あの方を――私《わたくし》に下さいまし。
薄 (静に出づ)お前様。
夫人 薄か。
薄 立派な方でございます。
夫人 今まで、あの人を知らなかった、目の及ばなかった私は恥かしいよ。
薄 かねてのお望みに叶《かの》うた方を、何でお帰しなさいました。
夫人 生命《いのち》が欲《ほし》い。抵抗《てむかい》をすると云うもの。
薄 御一所に、ここにお置き遊ばすまで、何の、生命《いのち》をお取り遊ばすのではございませんのに。
夫人 あの人たちの目から見ると、ここに居るのは活《い》きたものではないのだと思います。
薄 それでは、貴方の御容色《ごきりょう》と、そのお力で、無理にもお引留めが可《よ》うございますのに。何の、抵抗《てむかい》をしました処で。
夫人 いや、容色《きりょう》はこちらからは見せたくない。力で、人を強いるのは、播磨守なんぞの事、真《まこと》の恋は、心と心、……(軽く)薄や。
薄 は。
夫人 しかし、そうは云うものの、白鷹を据えた、鷹匠《たかじょう》だ
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