かな空があります。決して人間の持ちものではありません。諸侯《だいみょう》なんどというものが、思上った行過ぎな、あの、鷹を、ただ一人じめに自分のものと、つけ上りがしています。貴方はそうは思いませんか。
図書 (沈思す、間)美しく、気高い、そして計り知られぬ威のある、姫君。――貴方にはお答が出来かねます。
夫人 いえ、いえ、かどだてて言籠《いいこ》めるのではありません。私の申すことが、少しなりともお分りになりましたら、あのその筋道の分らない二三の丸、本丸、太閤丸《たいこうまる》、廓内《くるわうち》、御家中の世間へなど、もうお帰りなさいますな。白銀《しろがね》、黄金《こがね》、球、珊瑚《さんご》、千石万石の知行より、私が身を捧げます。腹を切らせる殿様のかわりに、私の心を差上げます、私の生命《いのち》を上げましょう。貴方お帰りなさいますな。
図書 迷いました、姫君。殿に金鉄の我が心も、波打つばかり悩乱をいたします。が、決心が出来ません。私《わたくし》は親にも聞きたし、師にも教えられたし、書もつにも聞かねばなりません。お暇《いとま》を申上げます。
夫人 (歎息す)ああ、まだ貴方は、世の中に未練が
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