間というものは不思議な咎《とが》を被《おお》せるものだね。その鷹は貴方が勝手に鳥に合せたのではありますまい。天守の棟に、世にも美しい鳥を視《み》て、それが欲しさに、播磨守が、自分で貴方にいいつけて、勝手に自分でそらしたものを、貴方の罪にしますのかい。
図書 主《しゅう》と家来でございます。仰せのまま生命《いのち》をさし出しますのが臣たる道でございます。
夫人 その道は曲っていましょう。間違ったいいつけに従うのは、主人に間違った道を踏ませるのではありませんか。
図書 けれども、鷹がそれました。
夫人 ああ、主従とかは可恐《おそろ》しい。鷹とあの人間の生命《いのち》とを取《とり》かえるのでございますか。よしそれも、貴方が、貴方の過失《あやまち》なら、君と臣というもののそれが道なら仕方がない。けれども、播磨がさしずなら、それは播磨の過失というもの。第一、鷹を失ったのは、貴方ではありません。あれは私が取りました。
図書 やあ、貴方が。
夫人 まことに。
図書 ええ、お怨《うら》み申上ぐる。(刀に手を掛く。)
夫人 鷹は第一、誰のものだと思います。鷹には鷹の世界がある。露霜の清い林、朝嵐夕風の爽
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