と笑む)ああ、爽《さわや》かなお心、そして、貴方はお勇《いさま》しい。燈《あかり》を点《つ》けて上げましょうね。(座を寄す。)
図書 いや、お手ずからは恐多い。私《わたくし》が。
夫人 いえいえ、この燈《ともしび》は、明星、北斗星、竜の燈、玉の光もおなじこと、お前の手では、蝋燭《ろうそく》には点《つ》きません。
図書 ははッ。(瞳を凝《こら》す。)
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夫人、世話めかしく、雪洞《ぼんぼり》の蝋を抜き、短檠《たんけい》の灯を移す。燭《しょく》をとって、熟《じっ》と図書の面《おもて》を視《み》る、恍惚《うっとり》とす。
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夫人 (蝋燭を手にしたるまま)帰したくなくなった、もう帰すまいと私は思う。
図書 ええ。
夫人 貴方は、播磨が貴方に、切腹を申しつけたと言いました。それは何の罪でございます。
図書 私《わたくし》が拳《こぶし》に据えました、殿様が日本一とて御秘蔵の、白い鷹を、このお天守へ逸《そら》しました、その越度《おちど》、その罪過でございます。
夫人 何、鷹をそらした、その越度、その罪過、ああ人
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