。――あちらへ。――城の主人《あるじ》の鷹狩が、雨風に追われ追われて、もうやがて大手さきに帰る時分、貴女は沢山《たんと》お声がいいから、この天守から美しい声が響くと、また立騒いでお煩《うるさ》い。
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亀姫のかしずきたち、皆立ちかかる。
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いや、御先達、お山伏は、女たちとここで一献《いっこん》お汲《く》みがよいよ。
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朱の盤 吉祥天女、御功徳でござる。(肱《ひじ》を張って叩頭《こうとう》す。)
亀姫 ああ、姥、お前も大事ない、ここに居てお相伴をしや。――お姉様《あねえさま》に、私から我儘《わがまま》をしますから。
夫人 もっともさ。
舌長姥 もし、通草《あけび》、山ぐみ、山葡萄、手造りの猿の酒、山蜂の蜜、蟻の甘露、諸白《もろはく》もござります、が、お二人様のお手鞠は、唄を聞きますばかりでも寿命の薬と承る。かように年を取りますと、慾《よく》も、得も、はは、覚えませぬ。ただもう、長生《ながいき》がしとうござりましてのう。
朱の盤 や、姥殿、その上のまた慾があるかい。
舌長姥 憎ま
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