きました。けれども、御心入《おこころいり》の貴女のお土産《みや》で、私のはお恥しくなりました。それだから、ただ思っただけの、申訳に、お目に掛けますばかり。
亀姫 いいえ、結構、まあ、お目覚しい。
夫人 差上げません。第一、あとで気がつきますとね、久しく蔵込《しまいこ》んであって、かび臭い。蘭麝《らんじゃ》の薫《かおり》も何にもしません。大阪城の落ちた時の、木村長門守の思切ったようなのだと可《い》いけれど、……勝戦《かちいくさ》のうしろの方で、矢玉の雨宿《あまやどり》をしていた、ぬくいのらしい。御覧なさい。
亀姫 (鉢金《はちがね》の輝く裏を返す)ほんに、討死をした兜ではありませんね。
夫人 だから、およしなさいまし、葛や、しばらくそこへ。
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指図のまま、葛、その兜を獅子頭の傍《かたえ》に置く。
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お帰りまでに、きっとお気に入るものを調えて上げますよ。
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亀姫 それよりか、お姉様《あねえさま》、早く、あのお約束の手鞠《てまり》を突いて遊びましょうよ。
夫人 ああ、遊びましょう
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