云えば、お亀様、あなたに見せるものがある。――桔梗さん。
桔梗 はい。
夫人 あれを、ちょっと。
桔梗 畏《かしこ》まりました。(立つ。)
朱の盤 (不意に)や、姥殿、獅子のお頭に見惚《みと》れまい。尾籠《びろう》千万。
舌長姥 (時に、うしろ向きに乗出して、獅子頭を視《なが》めつつあり)老人《としより》じゃ、当|館《やかた》奥方様も御許され。見惚れるに無理はないわいの。
朱の盤 いやさ、見惚れるに仔細《しさい》はないが、姥殿、姥殿はそこに居て舌が届く。(苦笑《にがわらい》す。)
[#ここから2字下げ]
舌長姥思わず正面にその口を蔽《おお》う。侍女等忍びやかに皆笑う。桔梗、鍬形《くわがた》打ったる五枚|錣《しころ》、金の竜頭《たつがしら》の兜《かぶと》を捧げて出づ。夫人と亀姫の前に置く。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
夫人 貴女、この兜はね、この城の、播磨守が、先祖代々の家の宝で、十七の奥蔵《おくぐら》に、五枚錣に九ツの錠《じょう》を下《おろ》して、大切に秘蔵をしておりますのをね、今日お見えの嬉しさに、実は、貴女に上げましょうと思って取出してお
前へ
次へ
全59ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング