夫人 しばらく! 折角、あなたのお土産を、いま、それをお抜きだと、衛門之介も針が抜けて、蘇返《よみがえ》ってしまいましょう。
朱の盤 いかさまな。
夫人 私が気をつけます。可《よ》うござんす。(扇子を添えて首を受取る)お前たち、瓜を二つは知れたこと、この人はね、この姫路の城の主、播磨守とは、血を分けた兄弟よ。
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侍女等目と目を見合わす。
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ちょっと、獅子にお供え申そう。
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みずから、獅子頭の前に供う。獅子、その牙《きば》を開き、首を呑《の》む。首、その口に隠る。
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亀姫 (熟《じっ》と視《み》る)お姉様《あねえさま》、お羨《うらやま》しい。
夫人 え。
亀姫 旦那様が、おいで遊ばす。
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間。――夫人、姫と顔を合す、互に莞爾《かんじ》とす。
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夫人 嘘が真《まこと》に。……お互に……
亀姫 何の不足はないけれど、
夫人 こんな男が欲《ほし》いねえ。――ああ、男と
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