や、不重宝《ぶちょうほう》、途中|揺溢《ゆりこぼ》いて、これは汁《つゆ》が出ました。(その首、血だらけ)これ、姥《うば》殿、姥殿。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
舌長姥 あいあい、あいあい。
朱の盤 御進物が汚れたわ。鱗《うろこ》の落ちた鱸《すずき》の鰭《ひれ》を真水で洗う、手の悪い魚売人には似たれども、その儀では決してない。姥殿、此方《こなた》、一拭《ひとぬぐ》い、清めた上で進ぜまいかの。
夫人 (煙管を手に支《つ》き、面《おもて》正しく屹《きっ》と視《み》て)気遣いには及びません、血だらけなは、なおおいしかろう。
舌長姥 こぼれた羹《あつもの》は、埃溜《はきだめ》の汁でござるわの、お塩梅《あんばい》には寄りませぬ。汚穢《むさ》や、見た目に、汚穢や。どれどれ掃除して参らしょうぞ。(紅《あか》の袴《はかま》にて膝行《いざ》り出で、桶を皺手《しわで》にひしと圧《おさ》え、白髪《しらが》を、ざっと捌《さば》き、染めたる歯を角《けた》に開け、三尺ばかりの長き舌にて生首の顔の血をなめる)汚穢や、(ぺろぺろ)汚穢やの。(ぺろぺろ)汚穢やの、汚穢やの、ああ
前へ
次へ
全59ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング