これは、いかな事――(立直る。大音に)ものも案内。
薄 どうれ。(壁より出迎う)いずれから。
朱の盤 これは岩代国|会津郡《あいづごおり》十文字ヶ原|青五輪《あおごわ》のあたりに罷在《まかりあ》る、奥州変化の先達《せんだつ》、允殿館《いんでんかん》のあるじ朱の盤坊でござる。すなわち猪苗代の城、亀姫君の御供をいたし罷出《まかりで》ました。当お天守富姫様へ御取次を願いたい。
薄 お供御苦労に存じ上げます。あなた、お姫様《ひいさま》は。
朱の盤 (真仰向《あおむ》けに承塵《てんじょう》を仰ぐ)屋の棟に、すでに輿《かご》をばお控えなさるる。
薄 夫人《うちかた》も、お待兼ねでございます。
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手を敲《たた》く。音につれて、侍女三人出づ。斉《ひと》しく手をつく。
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早や、御入《おんい》らせ下さりませ。
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朱の盤 (空へ云う)輿傍《かごわき》へ申す。此方《こなた》にもお待《まち》うけじゃ。――姫君、これへお入《い》りのよう、舌長姥《したながうば》、取次がっせえ。
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