《なおざり》にはなりません。
薄 その儀は畏《かしこま》りました。お前様、まあ、それよりも、おめしかえを遊ばしまし、おめしものが濡れまして、お気味が悪うござりましょう。
夫人 おかげで濡れはしなかった。気味の悪い事もないけれど、隔てぬ中の女同士も、お亀様に、このままでは失礼だろう。(立つ)着換えましょうか。
女郎花 ついでに、お髪《ぐし》も、夫人様《だんなさま》
夫人 ああ、あげてもらおうよ。
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夫人に続いて、一同、壁の扉に隠る。女童《めのわらわ》のこりて、合唱す――
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ここはどこの細道じゃ、細道じゃ。
天神様の細道じゃ、細道じゃ。
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時に棟に通ずる件《くだん》の階子《はしご》を棟よりして入来《いりきた》る、岩代国《いわしろのくに》麻耶郡《まやごおり》猪苗代の城、千畳敷の主《ぬし》、亀姫の供頭《ともがしら》、朱の盤坊、大山伏の扮装《いでたち》、頭に犀《さい》のごとき角一つあり、眼《まなこ》円《つぶら》かに面《つら》の色朱よりも赤く、手と脚、瓜《うり》に似て青し。白布《しろぬの》にて蔽《おお》うたる一個の小桶《こおけ》を小
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