い。おかしいやら、気の毒やら、ねえ、お前。
薄 はい。
夫人 私はね、群鷺《むらさぎ》ヶ|峰《みね》の山の端《は》に、掛稲《かけいね》を楯《たて》にして、戻道《もどりみち》で、そっと立って視《なが》めていた。そこには昼の月があって、雁金《かりがね》のように(その水色の袖を圧《おさ》う)その袖に影が映った。影が、結んだ玉ずさのようにも見えた。――夜叉ヶ池のお雪様は、激《はげし》いなかにお床《ゆか》しい、野はその黒雲《くろくも》、尾上《おのえ》は瑠璃《るり》、皆、あの方のお計らい。それでも鷹狩の足も腰も留めさせずに、大風と大雨で、城まで追返しておくれの約束。鷹狩たちが遠くから、松を離れて、その曠野を、黒雲の走る下に、泥川のように流れてくるに従って、追手《おいて》の風の横吹《よこしぶき》。私が見ていたあたりへも、一|村雨《むらさめ》颯《さっ》とかかったから、歌も読まずに蓑をかりて、案山子の笠をさして来ました。ああ、そこの蜻蛉《とんぼ》と鬼灯《ほおずき》たち、小児《こども》に持たして後ほどに返しましょう。
薄 何の、それには及びますまいと存じます。
夫人 いえいえ、農家のものは大切だから、等閑
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