。それにつけましても、お前様おかえりを、お待ち申上げました。――そしてまあ、いずれへお越し遊ばしました。
夫人 夜叉《やしゃ》ヶ|池《いけ》まで参ったよ。
薄 おお、越前国|大野郡《おおのごおり》、人跡絶えました山奥の。
萩 あの、夜叉ヶ池まで。
桔梗 お遊びに。
夫人 まあ、遊びと言えば遊びだけれども、大池のぬしのお雪様に、ちっと……頼みたい事があって。
薄 私《わたくし》はじめ、ここに居《お》ります、誰ぞお使いをいたしますもの、御自分おいで遊ばして、何と、雨にお逢《あ》いなさいましてさ。
夫人 その雨を頼みに行《ゆ》きました。――今日はね、この姫路の城……ここから視《み》れば長屋だが、……長屋の主人、それ、播磨守《はりまのかみ》が、秋の野山へ鷹狩《たかがり》に、大勢で出掛けました。皆《みんな》知っておいでだろう。空は高し、渡鳥、色鳥の鳴く音《ね》は嬉しいが、田畑と言わず駈廻《かけまわ》って、きゃっきゃっと飛騒ぐ、知行とりども人間の大声は騒がしい。まだ、それも鷹ばかりなら我慢もする。近頃は不作法な、弓矢、鉄砲で荒立つから、うるささもうるさしさ。何よりお前、私のお客、この大空の霧を渡っ
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