た。
 稍《やや》あつて、大跨《おおまた》の足あとは、衝《つ》と逆《ぎゃく》に退《しさ》つたが、すツくと立向《たちむか》つた様子があつて、切つて放したやうに、
「打て!」
「殺して、殺して下さいよ、殺して下さいよ。」
「いづれ殺す、活《い》けては置かぬが、男の居所《いどころ》を謂ふまでは、活《いか》さぬ、殺さぬ。やあ、手ぬるい、打て。笞《しもと》の音が長く続いて在所《ありか》を語る声になるまで。」
「はツ。」
 四五人で答へたらしい、荊《いばら》の実は又|頻《しきり》に飛ぶ、記念《かたみ》の衣《きぬ》は左右より、衣紋《えもん》がはら/\と寄つては解《と》け、解《ほぐ》れては結《むす》ぼれ、恰《あたか》も糸の乱るゝやう、翼裂けて天女《てんにょ》の衣《ころも》、紛々《ふんふん》として大空より降《ふ》り来《く》るばかり、其の胸の反《そ》る時や、紅裏《こううら》颯《さっ》と飜《ひるがえ》り、地に襟《えり》のうつむき伏《ふ》す時、縞《しま》はよれ/\に背《せな》を絞つて、上に下に七転八倒《しってんばっとう》。
 俤《おもかげ》は近く桂木の目の前に、瞳《ひとみ》を据《す》ゑた目も塞《ふさ》がず、薄
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