気も弛《ゆる》み、心も挫《くじ》けて、一斉《いっとき》にがつくりと疲労《つかれ》が出た。初陣《ういじん》の此の若武者《わかむしゃ》、霧に打たれ、雨に悩み、妖婆《ようば》のために取つて伏せられ、忍《しのび》の緒《お》をプツツリ切つて、
「最《も》う何《ど》うでも可《よ》うございます、私はふら/\して堪《たま》らない、殺されても可《い》いから少時《しばらく》爰《ここ》で横になりたい、構はないかね、御免なさいよ。」
「おう/\可《い》いともなう、安心して一休み休まつしやれ、ちツとも憂慮《きづかい》をさつしやることはないに、私《わし》が山猫の化けたのでも。」
「え。」
「はて魔の者にした処《ところ》が、鬼神《きじん》に横道《おうどう》はないといふ、さあ/\かたげて寝《やす》まつしやれいの/\。」
 桂木はいふがまゝに、兎《と》も角《かく》も横になつた、引寄せもせず、ポネヒル銃のある処《ところ》へ転げざまに、倒れて寝ようとすると、
「や、しばらく待たつしやれ。」

        八

「お前様一枚脱いでなり、濡《ぬ》れたあとで寒うござろ。」
「震へるやうです、全く。」
「掛けるものを貸して進ぜ
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