善にも悪にも恁《こ》うして居ちや、じり/\して胸が苦しい、じみ/\雨で弱らせるのは、第一|何《なに》にしろ卑怯の到《いた》りだ、さあ、さあ、人間でさいなくなりや、其を合図で勝負にしよう、」と微笑を泛《うか》べて串戯《じょうだん》らしく、身悶《みもだえ》をして迫りながら、桂木の瞳《ひとみ》は据《すわ》つた。
 血気《けっき》に逸《はや》る少年の、其の無邪気さを愛する如く、離れては居るが顔と顔、媼は嘗《な》めるやうにして、しよぼ/\と目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みひら》き、
「お客様もう降つて居《い》はせぬがなう。」
 桂木|一驚《いっきょう》を喫《きっ》して、
「や何時《いつ》の間《ま》に、」

        七

「炉の中の荊《いばら》の葉が、かち/\と鳴つて燃えると、雨は上るわいなう。」
 いかにも拭《ぬぐ》つたやうに野面《のづら》一面。媼《おうな》の頭《つむり》は白さを増したが、桂木の膝《ひざ》のあたりに薄日《うすび》が射《さ》した、但《ただ》件《くだん》の停車場《ステエション》に磁石を向けると、一直線の北に当る、日金山《ひがねやま》、鶴巻山《つるまきやま》、
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