ばこ》の蓋《ふた》も撥飛《はねと》ばして、笊を開けた。「御免よ。」「御免なさいよ。」と、雀の方より、こっちが顔を見合わせて、悄気《しょ》げつつ座敷へ引込《ひっこ》んだ。
 少々|極《きまり》が悪くって、しばらく、背戸《せど》へ顔を出さなかった。
 庭下駄《にわげた》を揃《そろ》えてあるほどの所帯ではない。玄関の下駄を引抓《ひッつま》んで、晩方《ばんがた》背戸へ出て、柿の梢《こずえ》の一つ星を見ながら、「あの雀はどうしたろう。」ありたけの飛石――と言っても五つばかり――を漫《そぞろ》に渡ると、湿《し》けた窪地《くぼち》で、すぐ上が荵《しのぶ》や苔《こけ》、竜《りゅう》の髯《ひげ》の石垣の崖《がけ》になる、片隅に山吹《やまぶき》があって、こんもりした躑躅《つつじ》が並んで植《うわ》っていて、垣どなりの灯《ひ》が、ちらちらと透《す》くほどに二、三輪|咲残《さきのこ》った……その茂った葉の、蔭も深くはない低い枝に、雀が一羽、たよりなげに宿っていた。正《まさ》に前刻《さっき》の仔に違いない。…様子が、土から僅《わず》か二尺ばかり。これより上へは立てないので、ここまで連れて来た女親《おふくろ》が、
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