の仔雀のあこがれようと言ったらない。あの声がキイと聞えるばかり鳴き縋《すが》って、引切《ひっき》れそうに胸毛を震わす。利かぬ羽を渦《うず》にして抱きつこうとするのは、おっかさんが、嘴《はし》を笊の目に、その……ツツと入れては、ツイと引く時である。
見ると、小さな餌《え》を、虫らしい餌を、親は嘴《くちばし》に銜《くわ》えているのである。笊の中には、乳離《ちばな》れをせぬ嬰児《あかんぼ》だ。火のつくように泣立《なきた》てるのは道理である。ところで笊の目を潜《くぐ》らして、口から口へ哺《くく》めるのは――人間の方でもその計略だったのだから――いとも容易《やさし》い。
だのに、餌を見せながら鳴き叫ばせつつ身を退《ひ》いて飛廻《とびまわ》るのは、あまり利口でない人間にも的確に解せられた。「あかちゃんや、あかちゃんや、うまうまをあげましょう、其処《そこ》を出ておいで。」と言うのである。他《ひと》の手に封じられた、仔はどうして、自分で笊が抜けられよう? 親はどうして、自分で笊を開けられよう? その思《おもい》はどうだろう。
私たちは、しみじみ、いとしく可愛くなったのである。
石も、折箱《おり
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