《おおあぐら》を掻く。
 呆気《あっけ》に取られて立《たち》すくむと、
「おお、これ、あんた、あんたも衣《き》ものを脱ぎなさい。みな裸体《はだか》じゃ。そうすればお客人の遠慮がのうなる。……ははははは、それが何より。さ、脱ぎなさい脱ぎなさい。」
 串戯《じょうだん》にしてもと、私は吃驚《びっくり》して、言《ことば》も出ぬのに、女はすぐに幅狭《はばぜま》な帯を解いた。膝へ手繰《たぐ》ると、袖《そで》を両方へ引落《ひきおと》して、雪を分けるように、するりと脱ぐ。……膚《はだ》は蔽《おお》うたよりふっくりと肉を置いて、脊筋《せすじ》をすんなりと、撫肩《なでがた》して、白い脇を乳《ちち》が覗《のぞ》いた。それでも、脱ぎかけた浴衣《ゆかた》をなお膝に半ば挟《はさ》んだのを、おっ、と這《は》うと、あれ、と言う間《ま》に、亭主がずるずると引いて取った。
「はははは。」
 と笑いながら。
 既にして、朱鷺色《ときいろ》の布一重《ぬのひとえ》である。
 私も脱いだ。汗は垂々《たらたら》と落ちた。が、憚《はばか》りながら褌《ふんどし》は白い。一輪の桔梗《ききょう》の紫の影に映《は》えて、女はうるおえる玉の
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