ない。……ああ、あんた、ちょっと繕《つくろ》っておあげ申せ。」
「はい。」
すぐに美人が、手の針は、まつげにこぼれて、目に見えぬが、糸は優しく、皓歯《しらは》にスッと含まれた。
「あなた……」
「ああ、これ、紅《あか》い糸で縫えるものかな。」
「あれ――おほほほ。」
私がのっそりと突立《つッた》った裾《すそ》へ、女の脊筋《せすじ》が絡《まつわ》ったようになって、右に左に、肩を曲《くね》ると、居勝手《いがって》が悪く、白い指がちらちら乱れる。
「恐縮です、何ともどうも。」
「こう三人と言うもの附着《くッつ》いたのでは、第一|私《わし》がこの肥体《ずうたい》じゃ。お暑さが堪《たま》らんわい。衣服《きもの》をお脱ぎなさって。……ささ、それが早い。――御遠慮があってはならぬ――が、お身に合いそうな着替《きがえ》はなしじゃ。……これは、一つ、亭主が素裸《すはだか》に相成《あいな》りましょう。それならばお心安い。」
きびらを剥《は》いで、すっぱりと脱ぎ放《はな》した。畚褌《もっこふどし》の肥大裸体《でっぷりはだか》で、
「それ、貴方《あなた》。……お脱ぎなすって。」
と毛むくじゃらの大胡座
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