湧《わ》いたように見えますのは。」
「烏瓜《からすうり》でございます。下闇《したやみ》で暗がりでありますから、日中から、一杯咲きます。――あすこは、いくらでも、ごんごんごまがございますでな。貴方《あなた》は何とかおっしゃいましたな、スズメの蝋燭《ろうそく》。」
 これよりして、私は、茶の煮える間《ま》と言うもの、およそこの編《へん》に記《しる》した雀の可愛さをここで話したのである。時々|微笑《ほほえ》んでは振向《ふりむ》いて聞く。娘か、若い妻か、あるいは妾《おもいもの》か。世に美しい女の状《さま》に、一つはうかうか誘《さそ》われて、気の発奮《はず》んだ事は言うまでもない。
 さて幾度か、茶をかえた。
「これを御縁に。」
「勿論かさねまして、頃日《このごろ》に。――では、失礼。」
「ああ、しばらく。……これは、貴方《あなた》、おめしものが。」
 ……心着《こころづ》くと、おめしものも気恥《きはずか》しい、浴衣《ゆかた》だが、うしろの縫《ぬい》めが、しかも、したたか綻《ほころ》びていたのである。
「ここもとは茅屋《あばらや》でも、田舎道ではありませんじゃ。尻端折《しりばしょり》……飛んでも
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