しもん》の兀《は》げたのを被《き》たが、肥って大《おおき》いから、手足も腹もぬっと露出《むきで》て、ちゃんちゃんを被《はお》ったように見える、逞《たく》ましい肥大漢《でっぷりもの》の柄《がら》に似合わず、おだやかな、柔和な声して、
「何か、おとしものでもなされたか、拾ってあげましょうかな。」
 と言った。四十くらいの年配である。
 私は一応|挨拶《あいさつ》をして、わけを言わなければならなかった。
「ははあ、ごんごんごま、……お薬用《やくよう》か、何か禁厭《まじない》にでもなりますので?」
 とにかく、路傍《みちばた》だし、埃《ほこり》がしている。裏の崖境《がけざかい》には、清浄《きれい》なのが沢山あるから、御休息かたがた。で、ものの言いぶりと人のいい顔色《かおつき》が、気を隔《お》かせなければ、遠慮もさせなかった。
「丁《ちょう》ど午睡時《ひるねどき》、徒然《とぜん》でおります。」
 導かるるまま、折戸《おりど》を入ると、そんなに広いと言うではないが、谷間の一軒家と言った形で、三方が高台の森、林に包まれた、ゆっくりした荒れた庭で、むこうに座敷の、縁《えん》が涼しく、油蝉《あぶらぜみ》
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