坂《あかさか》まで行《ゆ》く間に、雀の獲《え》もの約一千を下らないと言うのを見て戦慄《せんりつ》した。
空気銃を取って、日曜の朝、ここの露地口に立つ、狩猟服の若い紳士たちは、失礼ながら、犬ころしに見える。
去年の暮にも、隣家《りんか》の少年が空気銃を求め得て高く捧げて歩行《ある》いた。隣家の少年では防ぎがたい。おつかいものは、ただ煎餅《せんべい》の袋だけれども、雀のために、うちの小母《おば》さんが折入《おりい》って頼んだ。
親たちが笑って、
「お宅の雀を狙《ねら》えば、銃を没収すると言う約条《やくじょう》ずみです。」
かつて、北越、倶利伽羅《くりから》を汽車で通った時、峠の駅の屋根に、車のとどろくにも驚かず、雀の日光に浴しつつ、屋根を自在に、樋《とい》の宿に出入《ではい》りするのを見て、谷に咲《さき》残《のこ》った撫子《なでしこ》にも、火牛《かぎゅう》の修羅《しゅら》の巷《ちまた》を忘れた。――古戦場を忘れたのが可《い》いのではない。忘れさせたのが雀なのである。
モウパッサンが普仏《ふふつ》戦争を題材にした一篇の読みだしは、「巴里《パリイ》は包囲されて飢えつつ悶《もだ》えてい
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