ばかり茂って、蕾《つぼみ》を持たない。丁《ちょう》ど十年目に、一昨年の卯月《うづき》の末にはじめて咲いた。それも塀を高く越した日当《ひあたり》のいい一枝だけ真白に咲くと、その朝から雀がバッタリ。意気地なし。また丁《ちょう》どその卯の花の枝の下に御飯《おまんま》が乗っている。前年の月見草で心得て、この時は澄ましていた。やがて一羽ずつ密《そっ》と来た。忽《たちま》ち卯の花に遊ぶこと萩に戯《たわむ》るるが如しである。花の白いのにさえ怯《おび》えるのであるから、雪の降った朝の臆病思うべしで、枇杷塚《びわづか》と言いたい、むこうの真白の木の丘に埋《うずも》れて、声さえ立てないで可哀《あわれ》である。
椿の葉を払っても、飛石の上を掻分《かきわ》けても、物干に雪の溶けかかった処《ところ》へ餌《え》を見せても影を見せない。炎天、日盛《ひざかり》の電車道《でんしゃみち》には、焦《こ》げるような砂を浴びて、蟷螂《とうろう》の斧《おの》と言った強いのが普通だのに、これはどうしたものであろう。……はじめ、ここへ引越したてに、一、二年いた雀は、雪なんぞは驚かなかった。山を兎《うさぎ》が飛ぶように、雪を蓑《みの
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