るのさえ、おっかなびっくり、(坊主びっくり貂《てん》の皮)だから面白い。
 が、一夏《ひとなつ》縁日《えんにち》で、月見草《つきみそう》を買って来て、萩《はぎ》の傍《そば》へ植えた事がある。夕月に、あの花が露を香《にお》わせてぱッと咲くと、いつもこの黄昏《たそがれ》には、一時《ひととき》留《とま》り餌《え》に騒ぐのに、ひそまり返って一羽だって飛んで来ない。はじめは怪《あや》しんだが、二日め三日めには心着《こころづ》いた。意気地《いくじ》なし、臆病。烏瓜《からすうり》、夕顔などは分けても知己《ちかづき》だろうのに、はじめて咲いた月見草の黄色な花が可恐《こわ》いらしい……可哀相《かわいそう》だから植替《うえか》えようかと、言ううちに、四日めの夕暮頃から、漸《や》っと出て来た。何、一度味をしめると飛《とび》ついて露も吸いかねぬ。
 まだある。土手三番町《どてさんばんちょう》の事を言った時、卯《う》の花垣をなどと、少々調子に乗ったようだけれど、まったくその庭に咲いていた。土地では珍しいから、引越す時|一枝《ひとえだ》折って来てさし芽にしたのが、次第に丈《たけ》たかく生立《おいた》ちはしたが、葉
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