と、胸毛の白いのばかりを残して、親雀は何処《どこ》へ飛ぶのかいなくなる。数は増しもせず、減りもせず、同じく十五、六羽どまりで、そのうちには、芽が葉になり、葉が花に、花が実になり、雀の咽《のど》が黒くなる。年々二、三度おんなじなのである。
 ……妙な事は、いま言った、萩《はぎ》また椿《つばき》、朝顔の花、露草《つゆくさ》などは、枝にも蔓《つる》にも馴れ馴染《なじ》んでいるらしい……と言うよりは、親雀から教えられているらしい。――が、見馴れぬものが少しでもあると、可恐《こわ》がって近づかぬ。一日でも二日でも遠くの方へ退《の》いている。尤《もっと》も、時にはこっちから、故《わざ》とおいでの儀を御免蒙《ごめんこうむ》る事がある。物干《ものほし》へ蒲団《ふとん》を干す時である。
 お嬢さん、お坊ちゃんたち、一家揃って、いい心持《こころもち》になって、ふっくりと、蒲団に団欒《だんらん》を試みるのだから堪《たま》らない。ぼとぼとと、あとが、ふんだらけ。これには弱る。そこで工夫をして、他所《よそ》から頂戴して貯《たくわ》えている豹《ひょう》の皮を釣って置く。と枇杷《びわ》の宿にいすくまって、裏屋根へ来
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