た》い寄る声を聞いて、ほろりとして、一人は袖《そで》を濡らして帰った。が、――その目白鳥の事で。……(寒い風だよ、ちょぼ一風《いちかぜ》は、しわりごわりと吹いて来る)と田越村《たごえむら》一番の若衆《わかいしゅう》が、泣声を立てる、大根の煮える、富士おろし、西北風《ならい》の烈しい夕暮に、いそがしいのと、寒いのに、向うみずに、がたりと、門《かど》の戸をしめた勢《いきおい》で、軒に釣った鳥籠をぐゎたり、バタンと撥返《はねかえ》した。アッと思うと、中の目白鳥は、羽ばたきもせず、横木を転げて、落葉の挟《はさま》ったように落ちて縮んでいる。「しまった、……三太郎が目をまわした。」「まあ、大変ね。」と襷《たすき》がけのまま庖丁《ほうちょう》を、投げ出して、目白鳥を掌《てのひら》に取って据えた婦《おんな》は目に一杯涙を溜《た》めて、「どうしましょう。」そ、その時だ。試《こころみ》に手水鉢《ちょうずばち》の水を柄杓《ひしゃく》で切って雫《しずく》にして、露にして、目白鳥の嘴《くちばし》を開けて含まして、襟《えり》をあけて、膚《はだ》につけて暖めて、しばらくすると、ひくひくと動き出した。ああ助《たすか
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