白鳥としては駄鳥《だちょう》かどうかは知らないが、私には大の、ご秘蔵――長屋の破軒《やぶれのき》に、水を飲ませて、芋《いも》で飼ったのだから、笑って故《わざ》と(ご)の字をつけておく――またよく馴れて、殿様が鷹《たか》を据《す》えた格《かく》で、掌《てのひら》に置いて、それと見せると、パッと飛んで虫を退治《たいじ》た。また、冬の日のわびしさに、紅椿《べにつばき》の花を炬燵《こたつ》へ乗せて、籠を開けると、花を被《かぶ》って、密を吸いつつ嘴《くちばし》を真黄色《まっきいろ》にして、掛蒲団《かけぶとん》の上を押廻《おしまわ》った。三味線《さみせん》を弾いて聞かせると、音《ね》に競《きそ》って軒で高囀《たかさえず》りする。寂しい日に客が来て話をし出すと障子の外で負けまじと鳴きしきる。可愛いもので。……可愛いにつけて、断じて籠には置くまい。秋雨《あきさめ》のしょぼしょぼと降るさみしい日、無事なようにと願い申して、岩殿寺《いわとのでら》の観音《かんおん》の山へ放した時は、煩《わずら》っていた家内と二人、悄然《しょうぜん》として、ツィーツィーと梢《こずえ》を低く坂下《さかさが》りに樹を伝って慕《し
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