ほかほかと一面に当る中に、声は噪《はしゃ》ぎ、影は踊る。
 すてきに物干《ものほし》が賑《にぎやか》だから、密《そっ》と寄って、隅の本箱の横、二階裏《にかいうら》の肘掛窓《ひじかけまど》から、まぶしい目をぱちくりと遣《や》って覗《のぞ》くと、柱からも、横木からも、頭の上の小廂《こびさし》からも、暖《あたたか》な影を湧《わ》かし、羽を光らして、一斉《いっとき》にパッと逃げた。――飛ぶのは早い、裏邸《うらやしき》の大枇杷《おおびわ》の樹までさしわたし五十|間《けん》ばかりを瞬《またた》く間《ま》もない。――(この枇杷の樹が、馴染《なじみ》の一家族の塒《ねぐら》なので、前通りの五本ばかりの桜の樹(有島《ありしま》家)にも一群《ひとむれ》巣を食っているのであるが、その組は私の内へは来ないらしい、持場が違うと見える)――時に、女中がいけぞんざいに、取込《とりこ》む時|引外《ひきはず》したままの掛棹《かけざお》が、斜違《はすか》いに落ちていた。硝子《がらす》一重《ひとえ》すぐ鼻の前《さき》に、一羽|可愛《かわい》いのが真正面《まっしょうめん》に、ぼかんと留《と》まって残っている。――どうかして、座
前へ 次へ
全41ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング