チイ、赤坊声《あかんぼごえ》で甘ったれて、餌《うまうま》を頂戴と、口を張開《はりひら》いて胸毛をふわふわとして待構《まちかま》える。チチッ、チチッ、一人でお食べなと言っても肯《き》かない。頬辺《ほっぺた》を横に振っても肯《き》かない。で、チイチイチイ……おなかが空いたの。……おお、よちよち、と言った工合に、この親馬鹿が、すぐにのろくなって、お飯粒《まんまつぶ》の白い処《ところ》を――贅沢《ぜいたく》な奴らで、内《うち》のは挽割麦《ひきわり》を交《ま》ぜるのだがよほど腹がすかないと麦の方へは嘴《はし》をつけぬ。此奴《こいつ》ら、大地震の時は弱ったぞ――啄《ついば》んで、嘴《はし》で、仔の口へ、押込《おしこ》み揉込《もみこ》むようにするのが、凡《およ》そ堪《たま》らないと言った形で、頬摺《ほおず》りをするように見える。
怪《け》しからず、親に苦労を掛ける。……そのくせ、他愛《たわい》のないもので、陽気がよくて、お腹《なか》がくちいと、うとうととなって居睡《いねむり》をする。……さあさあ一《ひと》きり露台《みはらし》へ出ようか、で、塀の上から、揃ってもの干《ほし》へ出たとお思いなさい。日の
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