二十六
「宗八《そっぱ》、宗八《そっぱ》。」
浪屋の表座敷、床の間の正面に、丸田官蔵、この成金、何の好みか、例なる詰襟《つめえり》の紺の洋服、高胡坐《たかあぐら》、座にある幇間《ほうかん》を大音に呼ぶ。
「はッ、」
「き様、逢阪のあんころ餅へ、使者に、後押《あとおし》で駈着《かけつ》けて、今帰った処じゃな。」
「御意にござります、へい。」
「何か、直ぐに連れてここへ来る手筈《てはず》じゃった、猿は、留木《とまりぎ》から落ちて縁の下へ半分|身体《からだ》を突込《つッこ》んで、斃死《くたばっ》ていたげに云う……嘘でないな。」
「実説正銘にござりまして、へい。餅屋|店《みせ》では、爺《じじい》の伝五めに、今夜、貴方様《あなたさま》、お珊の方様、」
と額を敲《たた》いて、
「すなわち、御寮人様、市へお練出しのお供を、お好《このみ》とあって承ります。……さてまた、名代娘のお美津さんは、御夫婦これに――ええ、すなわち逢阪の辻店は、戸を寄せ掛けた明巣《あきす》にござります。
処へ宗八、丸官閣下お使者といたし、車を一散に乗着けまして、隣家の豆屋の女房立会い、戸を押開いて見ましたれ
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