、檜扇《ひおうぎ》取って練る約束の、我《おの》がお珊の、市随一の曠《はれ》の姿を見ようため、芸妓《げいこ》、幇間《たいこもち》をずらりと並べて、宵からここに座を構えた。
 が、その座敷もまだ寂寞《ひっそり》して、時々、階子段《はしごだん》、廊下などに、遠い跫音《あしおと》、近く床しき衣摺《きぬずれ》の音のみ聞ゆる。
 お珊は袖を開き、居直って、
「まあな、ほんに夢のようにあろな。私かて、夢かと思う。」
 と、※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]丈《ろうた》けた黛《まゆずみ》、恍惚《うっとり》と、多一の顔を瞻《みまも》りながら、
「けど、何の、何の夢やおへん。たとい夢やかて。……丸官はんの方もな、私が身に替えて、承知させた……三々九度《さかずき》やさかい、ああした我《わが》ままな、好勝手な、朝云うた事は晩に変えやはる人やけど、こればかりは、私が附いているよって、承合《うけお》うて、どないしたかて夢にはせぬ。……あんじょう思うておくんなはれや。
 美津《みい》さん、」
 と娘の前髪に、瞳を返して、
「不思議な御縁やな。ほほ、」
 手を口許に翳《かざ》したが、
「こう
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