結《い》った仲居らしいのが、世話をして、御連中、いずれもお一ツずつは、いい気なもんです。
さすがに、御寮人は、頭《かぶり》をちょっと振って受けなかった。
それにも構わず……(さあ一ツ。)か何かで、美濃《みの》から近江《おうみ》、こちらの桟敷に溢《あふ》れてる大きなお臀《しり》を、隣から手を伸《のば》して猪口《ちょく》の縁《ふち》でコトコトと音信《おとづ》れると、片手で簪《かんざし》を撮《つま》んで、ごしごしと鬢《びん》の毛を突掻《つッか》き突掻き、ぐしゃりと挫《ひしゃ》げたように仕切に凭《もた》れて、乗出して舞台を見い見い、片手を背後《うしろ》へ伸ばして、猪口を引傾《ひっかたむ》けたまま受ける、注《つ》ぐ、それ、溢《こぼ》す。(わややな、)と云う。
そいつが、私の胸の前で、手と手を千鳥がけに始《はじま》ったんだから驚くだろう。御免も失礼も、会釈一つするんじゃない。
しかし憎くはなかったぜ。君の親方が舞台に出ていて、皆《みんな》が夢中で遣る事なんだ。
憎いのは一人|狂犬《やまいぬ》さ。
やっと静まったと思う間もない。
(酒か、)と喚《わめ》くと、むくむくと起《おき》かかって、
前へ
次へ
全104ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング