ひらき》をツイと押して、出て来て、小さくなって、背後《うしろ》の廊下、お極《きま》りだ、この処へ立つ事無用。あすこへ顔だけ出して踞《しゃが》んだもんです。(旦那、この娘《こ》を一人願われませんでござりましょうか。内々《うちうち》のもので、客ではござりません。お部屋へ知れますと悪うござりますが、貴下様《あなたさま》思召《おぼしめし》で、)と至って慇懃《いんぎん》です。
 資本《もとで》は懸《かか》らず、こういう時、おのぼりの気前を見せるんだ、と思ったから、さあさあ御遠慮なく、で、まず引受けたんだね。」

       七

「ずっと前へお出なさい、と云って勧めても、隅の口に遠慮して、膝に両袖を重ねて、溢《こぼ》れる八ツ口の、綺麗な友染《ゆうぜん》を、袂《たもと》へ、手と一所に推込《おしこ》んで、肩を落して坐っていたがね、……可愛らしいじゃないか。赤い紐《ひも》を緊《し》めて、雪輪に紅梅模様の前垂《まえだれ》がけです。
 それでも、幕が開いて芝居に身が入《い》って来ると、身体《からだ》をもじもじ、膝を立てて伸上って――背後《うしろ》に引込《ひっこ》んでいるんだから見辛いさね――そうしちゃ、
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