を桃割《ももわれ》に結って、緋の半襟で、黒繻子《くろじゅす》の襟を掛けた、黄の勝った八丈といった柄の着もの、紬《つむぎ》か何か、絣《かすり》の羽織をふっくりと着た。ふさふさの簪《かんざし》を前のめりに挿して、それは人柄な、目の涼しい、眉の優しい、口許《くちもと》の柔順《すなお》な、まだ肩揚げをした、十六七の娘が、一人入っていたろう。……出来るだけおつくりをしたろうが、着ものも帯も、余りいい家《うち》の娘じゃないらしいのが、」
「居ました。へい、親方が、貴方に差上げた桟敷ですから、人の入る訳はないが、と云って、私が伺いましたっけ。貴方が、(構いやしない。)と仰有《おっしゃ》るし、そこはね、大したお目触りのものではなし……あの通りの大入で、ちょっと退《ど》けようッて空場《あな》も見つからないものですから、それなりでお邪魔を願ッておきました。
後で聞きますと、出方が、しんせつに、まあ、喜ばせてやろうッて、内々で入れたんだそうで。ありゃ何ですッて、逢阪下《おうざかしも》の辻――ええ、天王寺に行《ゆ》く道です。公園寄の辻に、屋台にちょっと毛の生えたくらいの小さな店で、あんころ餅を売っている娘だ
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