じゅず》を外《はず》すと、木綿《もめん》小紋《こもん》のちゃんちゃん子、経肩衣《きょうかたぎぬ》とかいって、紋の着いた袖なしを――外は暑いがもう秋だ――もっくりと着込んで、裏納戸《うらなんど》の濡縁《ぬれえん》に胡坐《あぐら》かいて、横背戸《よこせど》に倒れたまま真紅《まっか》の花の小さくなった、鳳仙花《ほうせんか》の叢《くさむら》を視《なが》めながら、煙管《きせる》を横銜《よこぐわ》えにしていた親仁《おやじ》が、一膝《ひとひざ》ずるりと摺《ず》って出て、「一肩《ひとかた》遣《や》っても進じょうがの、対手《あいて》を一つ聞かなくては、のう。」「お願いです、身体《からだ》もわるし、……実に弱りました。」「待たっせえ、何とかすべい。」お仏壇へ数珠を置くと、えいこらと立って、土間の足半《あしなか》を突掛《つッか》けた。五十の上だが、しゃんとした足つきで、石※[#「石+鬼」、第4水準2−82−48]道《いしころみち》を向うへ切って、樗《おうち》の花が咲重《さきかさな》りつつ、屋根ぐるみ引傾《ひっかたむ》いた、日陰の小屋へ潜《くぐ》るように入った、が、今度は経肩衣を引脱《ひきぬ》いで、小脇に絞っ
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