口と襟とのみ二枚重ねて、胴はたゞ一枚になし、以て三枚襲に合せ、下との兼用に充《あ》つるなり、これを比翼といふ。甚だ外形をてらふ処の卑怯なる手段の如くなれども比翼といへばそれにて通り、我もやましからず、人も許すなり。

     腰帯《こしおび》

 衣服を、はおれる後、裾の長きを引上げて一幅《ひとはゞ》の縮緬にて腰を緊《し》め、然る後に衣紋《えもん》を直し、胸襟《きようきん》を整ふ、この時用ゐるを腰帯といふ、勿論外形にあらわれざる処、色は紅白、人の好に因る、価値《あたひ》の低きはめりんすもあり。

     下〆《したじめ》

 腰帯を〆めてふくらみたる胸の衣《きぬ》を下に推下《おしさ》げたる後、乳《ちゝ》の下に結ぶもの下〆《したじめ》なり、品類は大抵同じ、これも外には見えざるなり、近頃|花柳《くわりう》の艶姐《えんそ》、経済上、彼の腰帯とこの下〆とを略して一筋にて兼用《かねもち》ふ、すなわち腰を結びたる切《きれ》の余《あまり》を直ちに引上げて帯の下〆にしたるなり。其腰と帯との間にとき色縮緬など下〆のちらりと見ゆる処、頗る意気なりと謂ふものあり。

     帯

 一寸の虫にも五分の
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