こ》みの、懸《かけ》みの、根かもじ、横毛といふあり、ばら毛といふあり。形《かた》に御殿形《ごてんがた》、お初形《はつがた》、歌舞伎形などありと知るべし。次には櫛なり、差櫛《さしぐし》、梳櫛《すきぐし》、洗櫛《あらひぐし》、中櫛《なかざし》、鬢掻《びんかき》、毛筋棒《けすぢぼう》いづれも其一《そのいち》を掻《か》くべからず。また、鬢附《びんつけ》と梳油《すきあぶら》と水油とこの三種の油必要なり。他に根懸《ねがけ》と手絡《てがら》あり。元結あり、白元結《しろもとゆひ》、黒元結《くろもとゆひ》、奴元結《やつこもとゆひ》、金柑元結《きんかんもとゆひ》、色元結《いろもとゆひ》、金元結《きんもとゆひ》、文七元結《ぶんしちもとゆひ》[#「文七元結」は底本では「文六元結」]など皆其類なり。笄《かうがい》、簪《かんざし》は謂ふも更なり、向指《むかうざし》、針打《はりうち》、鬢挟《びんばさみ》、髱挟《たばさみ》、当節また前髪留といふもの出来たり。
恁《かく》て島田なり、丸髷《まるわげ》なり、よきに従ひて出来あがれば起ちて、まづ、湯具を絡《まと》ふ、これを二布《ふたの》といひ脚布《こしまき》といひ女の言葉に湯もじといふ、但し湯巻《ゆまき》と混《こん》ずべからず、湯巻は別に其ものあるなり。それより肌襦袢、その上に襦袢を着るもの、胴より上が襦袢にて腰から下が蹴出しになる、上下合はせて長襦袢なり、これに半襟の飾を着く、さて其上《そのうへ》に下着を着て胴着を着て合着を着て一番上が謂はずとも知れ切つて居る上着なり。帯の下に下〆《したじめ》と、なほ腰帯といふものあり。また帯上《おびあげ》と帯留とおまけに扱《しごき》といふものあり。細腰が纏《まと》ふもの数ふれば帯をはじめとして、下紐に至るまで凡そ七条とは驚くべく、これでも解けるから妙なものなり。
さて先づ帯を〆め果《は》つれば、足袋を穿く下駄を穿く。待て駒下駄を穿かぬ先に忘れたる物多くあり、即ち、紙入、手拭、銀貨入《ぎんくわいれ》、手提の革鞄、扇となり。まだ/\時計と指環もある。なくてはならざる匂袋、これを忘れてなるものか。頭巾《づきん》を冠《かぶ》つて肩掛を懸ける、雨の降る日は道行合羽《みちゆきがつぱ》、蛇《じや》の目の傘《からかさ》をさすなるべし。これにて礼服着用の立派な婦人|一人前《ひとりまへ》、粧飾品《さうしよくひん》なり、衣服なり、はた
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