》である。
「お爺さん、ああ、それに、生意気をいうようだけれど、これは素晴らしい名作です。私は知らないが、友達に大分出来る彫刻家があるので、門前の小僧だ。少し分る……それに、よっぽど時代が古い。」
「和尚に聞かして下っせえ、どないにか喜びますべい、もっとも前藩主《せんとのさま》が、石州からお守りしてござったとは聞いとりますがの。」
 と及腰《およびごし》に覗《のぞ》いていた。
 お蝋燭《ろうそく》を、というと、爺が庫裡へ調達に急いだ――ここで濫《みだり》に火あつかいをさせない注意はもっともな事である――
「たしかに宝物。」
 憚《はばか》り多いが、霊容の、今度は、作を見ようとして、御廚子に寄せた目に、ふと卯の花の白い奥に、ものを忍ばすようにして、供物をした、二つ折の懐紙を視《み》た。備えたのはビスケットである。これはいささか稚気を帯びた。が、にれぜん河《が》のほとり、菩提樹《ぼだいじゅ》の蔭に、釈尊にはじめて捧げたものは何であろう。菩薩の壇にビスケットも、あるいは臘八《ろうはち》の粥《かゆ》に増《まさ》ろうも知れない。しかしこれを供えた白い手首は、野暮なレエスから出たらしい。勿論だ。意
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